紀州熊野の山伏祐慶一行が、諸国行脚の途中、奥州安達原に着き、一軒家に宿を乞います。女主人は、一度は断りますが、是非にといわれ招き入れます。
山伏が見馴れぬ枠かせ輪に興味を持つので、女は糸尽しの唄を謡いながら糸を繰る様を見せます。
夜更けに、女はもてなしの焚火をするために、山へ木を取りに行きますが、その際、帰るまで閨(ねや)の内を見るなと言い置きます。あまりにくどくど閨の内を見てはならぬと言って出かけたのを、かえって不審に思った能力が、山伏の目を盗んで閨をのぞいてしまいます。そこには人の死骸が山と積んであり、一行は驚いて逃げ出します。山からの帰り道、のぞかれたことを知った女は本性を現し、鬼女となって、約束を破ったことを恨み、襲いかかります。
山伏の必死の祈りに、鬼女は祈りふせられ、恨みの声を残して消え失せます。
「さしも隠しし閨のうちを、あさまになされまいらせし、恨み申しに来たりたり」
本曲は、「道成寺」「葵上」と共に(三鬼女)と呼ばれています。人間の宿業の悲しさを描いた傑作といわれ、鬼女となるのは、約束を破られたことへの失望と怒りのよるものです。人は皆、孤独の秘密を持つものであり、またその秘密をのぞき見たいというのも人間の持つ本性です。そういった人間の本性を巧みに描いています。
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