2020/03/14

能楽Q&A  ① 妻(ツマ)?夫(ツマ)?

Q:能の中で夫婦を題材とした作品はいくつもありますが、夫婦の男女がそれぞれのパートナーを夫(つま)や妻(つま)と言ったりするのはなぜですか?
勿論夫(オット)という場合もありますが。

A:時々お尋ねされる質問です。
例えば「籠太鼓(ろうだいこ)」では、ワキの九州松浦の何某が、家来の関の清次の妻(シテ)に向かって言う時は、「いかに女。汝が夫(おっと)の清次。・・」と言いますが、
シテは「さるにても我が夫(つま)は。何処(いずく)にかあるらん。・・」と言って、自分の夫が籠を破って逃げてしまったのを嘆きます。

最近私は日本の中世史にとても興味を持っておりまして、つい先日買い求めました本「日本中世への招待(呉座勇一著)」にも書かれてあったので、その一部を引用してお話しさせてくださいませ。

古代の結婚形態は「妻問婚(つまどいこん)」と呼ばれる。妻問婚における「妻(つま)」は、必ずしも女性を指す言葉ではない。古代の「ツマ」とは一対(ペア)の片割れ、片方を指す言葉で、男から見た配偶者はもちろん「ツマ」だが、女から見た配偶者、つまり夫も「ツマ」と呼ばれていた。
よって妻問婚と言っても、男から女の所に行くとは限らない。まず、男女、男と女がいて、どちらかが気に入った相手に求愛,求婚する。相手がそれを受け入れれば結婚成立という事になる。
また古代の場合は、夫婦は必ずしも同居しない。中世以降の「家」は、夫婦の同居を前提としている。しかし古代は結婚後も、それぞれの親・兄弟と、生活・労働を共にして、夜になると相手の所に行って、朝になると帰っていく。これは『源氏物語』を読めば良く分かるだろう。
妻問婚の「ツマ」は元々、女性のことを指すとは限らないので、男から女に通うこともあれば、女から男に通うこともある。
夫婦が同居しないということになると、当然のことながら、お互いが同時に複数の相手を持つことが可能である。つまり多夫多妻婚的な性格を持っていたのである。
現代の感覚から見ると、野蛮な時代に映るが、良く言えばおおらかな時代であったかもしれない。
そこから徐々に一夫一妻制に移行していくのである。

能「籠太鼓」は、世阿弥作と伝えられています。
中世とは概ね、平安末期から戦国時代までと言われておりますので、世阿弥の時代はもうすっかり中世のはずですが、結婚の概念においては少し遅れていたのかもしれませんね。

能「籠太鼓」シテ中森貫太




2020/03/13

はじめに ~能楽Q&A 開設!

我々能楽師も能楽に関するいろいろな質問をお受けします。

あまり掘り下げたお答えはできないかもしれませんが、役者ならではの見解を少しでも混ぜながらご説明できれば思い、新しく「能楽Q&A」というラベルを作って、そこでちょっとずつお話しさせていただきたく存じます。「Q&A」の「A」は通常はアンサー、私がお話しさせていただくわけですから、決して答えではなく、今の私が考える解釈だと理解していただければ幸いでございます。ご意見、反論は大歓迎です。

ブログをご覧いただいている方でご質問のある方は、投稿下部のコメントのところからおっしゃっていただければ、なるべく早めにお話しさせていただきます。

何卒宜しくお願い致します。

令和元年12月21日 羅生門 ワキ殿田謙吉 写真撮影:新宮夕海




2020/03/10

2020年4月の主な出演


1日(水)夜桜能 中止三輪靖国神社能楽殿18:40~
5日(日)金沢能楽会 別会能 中止船弁慶石川県立能楽堂12:00~
11日(土)朋の会 延期景清観世能楽堂13:00~
18日(土)五雲会 延期→8/15兼平☆宝生能楽堂12:00~
26日(日)観世九皐会別会 延期→12/26 遊行柳国立能楽堂13:00~
29日(水)国立能楽堂企画公演 中止葛城国立能楽堂13:00~